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湊町の蕎麦屋のオヤジは獣医さん(その3)
百年の暖簾を守る脱サラ親子
再び古い街を歩いた。川沿いの下町には昔の倉庫の名残があり、その上の上町には、れんが造りの銀行や古い商家が並んでいる。
そんな家並みの中で、見事に古い蕎麦屋を見つけた。看板には『生そば盛安』とある。
白い暖簾をくぐつた。いす席の向こうに、いかにも旧家らしい座敷がつづく。ヒゲ面の
店主が愛想よく迎えてくれた。
「古いお店ですな」と声をかけたら、「もう百年になります」という。 森安康作(44)、四代目です、と名乗った。
「お勧めの蕎麦は?」と聞いた。 「越前そばですから、オロシを使います。よく出るのがオロシ・ゴボウ天で…」
それを頼んだ。冷たいかけそばに、カリッとしゴボウのかき揚げ。
焦げめの香りがオロシ汁のダシと絶妙にマッチする。蕎麦は機 械切りだが、適当にコシがあっていい味だ。
「越前そばの流儀は二つあります。おろした大根をそのまま入れるのと、絞って液だけを入れるのと…。ウチでは絞ってますが、このほうが、当然、大根が余計要ります」
昔の越前そばは生じょうゆで食べたが、いまは現代向きにダシ汁にしていますという。
東京の大学を出て十五年間、畜産関係の輸入商社に勤めたが、三十五のときに帰って店を継いだ。東京で結婚したヨメさんを承知させるのに一年かかりましたヨと笑う。
「田舎町の蕎麦屋のカミさんになるなんて、ユメにも思わなかったけど、子どもふたりを人質に取られて・・・」と笑う夫人の博子さん。ゴボウ天を揚げればダンナを凌ぐ腕になった。
「三代目は・・・?」「もう往診から帰ってくるでしょう」 「往診って?」 バタバタッとオートバイが止まり、白い開襟シャツに黒スーツの老紳士が入ってきた。 「おやじです」 なんと、三代目の一男さん(67)は牛の獣医だという。貫録満点のゆったりした口調で、淡々と店の歴史を語ってくれ
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日本麺類業団体連合会発行
めん 1992年11月号
作:富永政美様
より抜粋 |
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